テレワーク下で生じる「人事評価制度」の課題と失敗しない評価の方法
「働き方改革」の一環として注目され、時間と場所に縛られない就業スタイルの「テレワーク」。導入する企業が増えていた中、2020年春以降、新型コロナウイルス感染症対策に後押しされる形で、さらに急速に普及した。テレワーク下における課題の一つとして、組織内のコミュニケーションの機会が減少し、マネジメント層が実際の勤務態度を目にできない中、「人事評価」を行うことが難しいという声が上がっている。この記事では、「テレワーク下での人事評価」には、どのような難しさや課題、注意点があるのか、また、状況にフィットした新しい評価制度を構築するためのヒントを紹介する。 |
目次
・なぜテレワーク下の人事評価は難しいのか?
・なぜテレワーク下での評価制度を考える必要があるのか?
・テレワークに適した評価制度の構築には、どのような課題があるか?
・その課題、本当にテレワークが原因だろうか? 理由を切り分けて分析しよう!
・テレワークに適した評価方法とは?
目次
なぜテレワーク下の人事評価は難しいのか?
テレワークで働く従業員の状況は見えづらいため、「プロセスの評価」がしにくいというのが評価する側の本音だろう。企業の人事担当者には、テレワークでの評価に関する課題を洗い出し、客観的な視点で評価ができる体制の整備が求められている。
テレワーク下の従業員に対する人事評価が難しい理由として、下記の3点が最も大きなものとして挙げられる。
・勤務態度を実際に見ることができない
・勤務時間を正確に把握しにくい
・成果につながる行動(工数、内容など)を細かく把握できない
対面でのコミュニケーションが難しくなったため、必然的にコミュニケーションの質と量は下がる。これまでは雑談から生まれていたアイデアが出にくくなったり、メールやチャットアプリといったオンラインでの連絡に遠慮が生じて報告や相談が滞ったりと、業務に支障が出る可能性も少なくない。こうした状態が続けば、マネジメント層が部下を管理しにくい環境になっていることも想像に難くない。従来のオフィス勤務であれば部下の勤務状態を直接目で見れば把握できたが、テレワークではそうはいかない。既存の管理・評価体制のままでは、テレワーク下での人事評価は難しいのである。
なぜテレワーク下での評価制度を考える必要があるのか?
では、なぜテレワークという働き方に沿った評価制度に変えていかなければならないのだろうか?
テレワークが普及した現在も、「従来の、オフィス出社を前提とした評価制度」を用いている企業は、まだまだ多いのではないだろうか。また、テレワークに対応するため、「目標管理制度に基づく成果主義」に移行している企業もあるかもしれないが、目標管理制度は、売上高や顧客訪問件数のように成果を数値化できる営業部門には適していても、組織には企画や開発といった、達成度を単純に数値化することが難しい部署・業務もある。そこで、評価制度を働き方にフィットしたものへと変えていく必要が生まれているのである。
なお、「テレワークに適応した新たな評価制度」を作るには、組織内では「評価される側が目標設定と成果報告を適切に実施できる仕組み」と「評価する側(人事部やマネジメント層)のスキル」の両方が必要になるため、一方の変革を促しただけでは達成できない。
テレワークに適した評価制度の構築には、どのような課題があるか?
新たな評価制度の設計へと話を移す前に、そもそも、テレワークにフィットした人事評価構築に立ちはだかる「課題」にはどのようなものがあるかを確認しておこう。
●勤務態度の評価が困難
オフィス勤務の場合は、上司が部下の様子を直接目視していたので、仕事への取り組み方や個々のモチベーションなど、「勤務態度全般」を評価対象とすることができた。しかし、テレワーク下では部下の仕事ぶりは見えない。また、コミュニケーションの量も質も下がる傾向にあるため、部下の態度がどのようなものであるか、判断が難しい。
これまでの「人事評価」には、「成果」だけでなく「プロセス」も評価に反映されていたが、テレワークではその評価材料が減っているといえる。
●手続きの滞り
テレワークでは、人事評価に必要な書類の提出・回収や決済が遅れ、必要な手続きが滞ってしまう可能性がある。特に人事部には大きな影響がある、「労務」の分野では、雇用契約や福利厚生、勤怠・給与といった、従業員の生活に直接関係がある重要な手続きを扱っている。手書き書類や、ハンコを押印する決裁などといった運用を続けている組織では、テレワーク下で評価する際に、手続きが滞りがちになってしまう。
●評価方法や基準のばらつき
オフィスで直接顔をあわせて関わる機会が減るため、人事担当者やマネジメント層による評価方法にばらつきが出ないよう、「評価の仕組み」から整備することも重要な課題だ。上司と部下の間で普段やり取りしているメッセージの内容や書き方、Web会議での発言、なども評価に入れるのか、テレワークでは普段の仕事ぶりは見えないものだと割り切った上で成果・実績のみを評価をするのか。
評価を下す側の属人性で左右される基準では、評価が極端に分かれてしまう恐れがあり、評価される側が抱く不公平感もぬぐえない。方法と基準がテレワーク下という新しい働き方に対応できていなければ、評価する側/される側の両者に混乱が生じ、機能不全を起こすだろう。
●人事プロセスの遅延
人事評価はマネジメント層が単独で行う場合と、複数の役職者や人事部の担当者、責任者が情報を共有しながら意見交換しつつ進めていく場合など、組織によって形はさまざまだ。人事評価を実施する側の間でコミュニケーションが滞ってしまい、スムーズな情報交換ができない可能性もある。複数人で評価を進める場合に、担当者同士もテレワーク下で働いていると、密なやりとりができなかったり、必要な時に相談できなかったりと、「評価プロセス」自体が滞ってしまう可能性も否めない。あらかじめ、テレワークで評価の遅延を防止するための対応抗策を講じておく必要がある。
●コミュニケーションの偏りや不足
テレワーク下では、オフィス出勤よりも意思疎通に手間がかかっているのが実情だろう。コミュニュケーションが活発になるよう、組織でルール化しておくことも大切である。予定を含めた業務報告や、業務終了報告を組織内で共有する仕組みを作ったり、相談事項が発生した場合に報告できる場を設けたりといった対応も重要だ。
また、メールやチャットアプリといった文字では伝わりにくい事柄もある。必要な時は適宜、Web会議などで、直接相談できる場を設けることも有効だ。工夫を凝らしたコミュニュケーションによって、部下の仕事ぶりが把握しやすくなれば、評価もしやすくなるだろう。
その課題、本当にテレワークが原因だろうか? 理由を切り分けて分析しよう!
テレワーク下でも通用する評価制度を構築する上で、手段を間違いないためには、「その課題が本当にテレワーク導入によって発生したのか、そうでないのか」を切り分けて考える必要がある。ここでは、「テレワークが原因となっている課題」と「他の要因がある課題」を分けてみよう。
●テレワークが原因で発生する課題
テレワーク導入が原因で人事評価の問題点となる可能性が高いものは下記のようなものが考えられる。
・部下の勤務態度や仕事ぶりが直接把握できない
・部下が他のチームメンバーとコミュニケーションを取れているか、状況がわからない
・部下のモチベーションや感情といった業務外の面が把握できない
・部下との雑談や仕事とは直接関係ない将来的なアイデアなどを話す機会が減った
当然、同じオフィスの中で共有する時間が長ければ、部下の働いている姿や、周囲とのコミュニケーション状況、表情から推察できる情報も多くなる。しかし、オンラインMTGといったコミュニケーションでは、目的のみの会話で完結してしまうため、相手の深いところまで理解が及びにくく、会話の相手も、どうしても決められた面々に留まってしまいがちである。特に、部下の内面についての情報は、これまでより部分的なものしか理解できなくなる状況が想定される。
●テレワークが原因ではない課題
改めて振り返るべきなのは、「実際出勤していたこれまでも、本当に部下の状況を把握できていたのか」や「把握するための仕組みが整っていなかったために上司の主観的なジャッジの要素が強くはなかったのか」という点についであり、検証が必要だ。
・部下の仕事の目的や成果、細かなプロセス状況
・部下が、相談や正しい報告を上げてきているか
・部下がその日に取り組んでいる業務はどのようなものか
・部下が何を考え、何の目的達成ができたか
・何の目的達成ができず困っているか
これらを把握できているか、という課題は、対面せずとも、適宜行うオンラインMTGや業務報告からも読み取ることができる事項なので、テレワークが原因で課題として浮上した可能性は低い。
テレワーク下では、電話や、外出・訪問、来客対応などで発生しがちな付帯業務が少なくなっている分、時間をうまく融通できれば、部下と向き合う時間に充てることもできるはずだ。にもかかわらず、もし上記が課題と感じている場合、オフィス出社が当たり前だった時から、本当に部下について把握できていたのか疑問の余地がある。当然、物理的に距離があることで、これまで得られていた言外のコミュニケーションによる情報が得にくいのは確かだが、そもそも実施していた評価精度の運用体制に問題点があった可能性は否めない。この場合は、企業の評価制度全体を一度見直してみるのがいいだろう。
テレワークに適した評価方法とは?
それでは、テレワークに適した人事評価制度を実現するための対策として、どのようなものがあるか。ここではポイントを7つに整理して紹介する。
(1)評価項目の明確化と共有
先述の通り、テレワークでは部下と直接対面する機会が減るため、評価する側としては、目に見えやすい成果・実績だけをもとに評価する傾向が強まる。そのため「評価項目の明確化」が効果な手段となる。
例えば、テレワークであっても、定期的にオンラインMTGツールなどを使って、遠隔であっても顔を合わせた面談を実施し、成果までのプロセスを確認することができる。また、プロセスを評価するためには、「いつまでに、何を行うか」を明確な目標として設定することも大切だ。業務スピードやレスポンスなども定量的に計測できればなおよく、評価材料に加えることもできるだろう。オフィス勤務を前提としていた人事評価制度から、テレワークに合わせた評価項目を設定すれば、適正な評価は可能となるはずである。
(2)評価方法の統一
テレワーク導入時は、評価する側も環境に慣れていないため、評価方法にばらつきが生じてしまう。評価する人によって、成果主義に偏ったり、逆にプロセスの評価に偏ったりなど、評価基準が曖昧になると、部下は不公平感を抱く。そこで、評価方法に属人的な偏りが出ない仕組み作りが重要となる。
この仕組み作りの手法としては、「人事評価システム」を導入し、人事評価の評価項目の明確化、評価方法の統一を図ることも視野に入れておくとよいだろう。
(3)「目標管理制度」の導入
個人が期間内に達成したい目標を定め、実現するための取り組みや中間目標を設定し、それに基づいて振り返りや評価を行うのが「目標管理制度」である。「MBO(Management By Objective)」ともいい、組織の目標と並行して個人が自主的に業務目標を定めて実行し、それに基づき評価を行う。「目標管理制度」は、(1)の「評価項目の明確化」、(2)の「評価方法の統一」の実現に適している。
一般的には、上司と部下の間で「目標」や「達成方法」などを相談し、上司が部下の取り組みをサポートする。評価する側は、事前に決めておいた取り組み内容に対して評価を行うため、テレワークであっても適正な評価が実施しやすいのが特徴だ。
(4)バランスの取れた「業務プロセス評価」と「成果主義」の採用
完全な成果主義で人事評価を行うと、従業員のモチベーションがかえって下がってしまうおそれがある。また、数字化できない業務にあたっている従業員に対しては、テレワーク下ではより評価が難しくなる傾向がある。「プロセス評価」と「成果主義」をどのようなバランスで採用し、どのような評価項目を設定するのか、組織の事情や風土に適した状態になるよう検討する必要がある。
なお、人事評価の担当者自身がテレワークをしている場合も多い現在、オンラインで情報共有しながら正しい評価をできるような仕組みをあらかじめ考慮しなければならない。
(5)部下が自己PRできる機会をつくる
部下自身が考える「成果」や、そこまでの「プロセス」について、評価する側にアピールできる機会を設けるのも、公平な評価を求める部下の不安要素を軽減するのに有効だ。
また、思ったような成果が出せなかった従業員についても、どのような課題に対してどのように改善を試みたのか、といった振り返りや自己評価をすることは、従業員のセルフマネジメントの意識向上に役立つだろう。
(6)裁量労働を可視化できる仕組みづくり
テレワーク導入にともない業務プロセスが可視化しにくくなったことから、「裁量労働制」をとる企業も多いだろう。しかし、裁量労働制を採用するだけでは、特定の従業員ばかりに負担が偏ったり、過剰な労働時間が生まれてしまったりする可能性も否めない。裁量労働制を導入する場合、まずは「人事評価のルール化」や「人事評価制度の見直し」を行い、従業員一人ひとりに対する「公平性」や「働きやすさ」を重視し、評価基準となる過程が組織内で共通認識となるような仕組みを作る必要がある。
(7)ITツールの導入
人事担当者としては、適正かつスムーズな人事評価をするための対策が必要なため、テレワークの移行に合わせて「人事評価システム」といったITツールを活用することも、有効な手段だ。クラウド上に評価の情報を一元管理することもできるので、マネジメント層がスムーズに人事評価を行うことができるようになる。テレワークを支援するITツールの中には、上司との画面共有機能や細かな勤怠管理を行える機能を備えたものもあり、手間をかけず、従業員の働きぶりを一定の基準によって評価できる環境が構築できるだろう。
また、ITツールは、評価システムがあるだけでなく、チャットや通話のアプリなどによるコミュニケーション活性化にも役立つ。
テレワーク下の業務プロセスは目で見て判断することが難しいため、「従来の人事評価制度」では対応できない側面がある。そのため、適切な人事評価制度の設計は急務といえる。また、「評価」にとらわれすぎず、部下がスムーズにテレワークでも業務遂行できるよう、課題や困っていることを引き出して適切な指示やアドバイス、サポートをしていくことも人事部やマネジメント層が取るべき対策の大きなポイントだ。いくら評価制度が整い、適正な評価ができるようになったとしても、テレワークが原因で業務が滞っていては意味がない。制度を整えると同時に、部下とコミュニケーションや、働きがいを感じられる環境整備も進めていく必要がある。人事担当者や管理職、上司ら、評価を下す側は、刻々と変わりゆく社会やシステムに対応し、明確な評価基準設定や共有、公平さを確保できれば、従業員のモチベーションアップにつなげられるため、ぜひ積極的な対策を実践していただきたい。
出典:HRプロ編集部 2020/12/17(https://www.hrpro.co.jp/)
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