公開日:2024/05/28
最終更新日:2024/06/13

残業の事前申請とは?メリットから導入の方法まで解説

残業の事前申請制

残業の事前申請とは、従業員が残業をする前に事前に申請する制度で、残業時間を適切に管理し、従業員の健康やワークライフバランスを適切に守ることができます。
また、事前申請制を導入する方法には、会社規定の見直しや残業申請書の作成、ルールの周知などがあり、導入に合わせて検討し直しが必要です。
本記事では、残業の事前申請制とはなにか、必要とされる理由からメリット・デメリット、ルールの決め方まで網羅的に解説します。

 

残業の事前申請制とは

残業の事前申請制とは、従業員があらかじめ上司や人事部門に残業を申請し、承認を得てから残業する制度のことです。
残業を申請制にすることで、労働時間の適切な管理や労働条件の透明性が確保され、労働者の健康や労働の生産性が向上します。
そのため、従業員に残業申請書へ必要事項を記載してもらい、上司が正しく管理できるようになれば、過剰な労働を抑制でき、職場環境の改善につながります。
しかし、終業間際に残業が必要になったり、正しい残業の事前申請制のルールを決めていなかったりすると、サービス残業が発生する恐れがあります。
そのため、残業の事前申請制を導入する際には、就業規則や会社ルールの見直し、残業の事前申請制が容易に行える勤怠管理システムの導入などの検討が必要です。

 

事前申請制が必要な理由

書類を運ぶビジネスマン

残業の事前申請制が必要な理由はいくつかあり、導入している会社の多くは、残業時間を適切に管理するために制度の導入をしています。
事前に申請された残業であれば、会社は従業員の労働時間を把握し、過剰な労働を防ぐのに役立てることができ、従業員の健康や労働条件が適切に守られます。
また、従業員の生産性を高めることにもつながり、従業員としても予定を調整しやすく、残業を最小限に抑えて効率的に業務をこなせます。
ほかにも、残業には人件費がかかりますが、事前申請制を導入することで、必要最低限の残業に留め、効率的な資源配分を実現できます。

 

残業時間を適切に管理するため

残業の事前申請制を利用することで、従業員の残業時間を適切に管理し、法律の遵守や社員の健康を守ることができます。
たとえば、従業員が突然の残業を繰り返し行うことで、予定外の労働時間が増加し、労働基準法に違反する可能性があります。
しかし、事前申請制を導入することで、従業員は計画的に残業を申請するようになり、企業は法令遵守をしながら労働時間を適切に管理できます。
そして、従業員は過剰な労働や健康リスクを避けることができ、従業員の健康やワークライフバランスが向上します。

 

従業員の生産性を高めるため

残業の事前申請制度を利用することで、従業員は決まった時間の中で業務を完了させなければならないと、意識が芽生えます。
たとえば、残業申請をせずに残業ができる環境だと、従業員はダラダラと時間を過ごしてしまうことがあります。
しかし、残業の事前申請制であれば、残業が必要だと認められた際にしかできないものだと意識づけることができ、結果的に生産性が向上します。

 

コスト削減をするため

残業の事前申請制により、最低限の残業時間で業務を進めるようになるため、コスト削減が実現します。
たとえば、事前に残業を申請することで、企業は必要最低限の残業時間を把握し、過剰な労働による余分な人件費を削減できます。
また、残業の事前申請制では、残業を事前に計画することになるため、従業員が効率的に仕事を行うように調整するため、生産性が向上します。
そのため、通常よりも同じ業務をより短い時間で完了することが可能になり、人件費の削減が可能です。
さらに、残業による追加の労働時間が最小限に抑えられれば、従業員の健康状態やモチベーションが保たれ、結果的に医療費や離職率の低下につながります。

 

残業の事前申請制のメリット

時間管理をするビジネスマン

残業の事前申請制のメリットとしては、事前申請制を導入することで、企業は労働基準法などの法令に確実に準拠できます。
また、従業員の働く環境や健康を守ることができ、過度な労働やストレスによる早期退職などのリスクを削減することが可能です。
さらに、労務管理が容易になることで効率的な勤怠管理が実現でき、従業員の業務効率化が進んで生産性が向上します。
このように、事前申請制は企業にとって、法令順守や従業員の健康維持、労務管理の効率化など、さまざまなメリットがあります。

 

確実に法令順守できる

残業の事前申請制を導入することで、企業は労働基準法の規定を確実に順守できます。
特に、労働基準法第36条では、残業時間の上限や残業手当の支払いに関する規定が定められています。
この法令は、1日あたりの労働時間が8時間を超える場合や1週間の労働時間が40時間を超える場合に残業が認められ、残業手当の支払いが義務付けられています。
このとき、36協定を締結している場合には、月に45時間・年間360時間以内であれば、残業が可能となっていますが、超えないように管理は必要です。

事前申請制を導入することで、従業員の労働時間が法定の範囲内に収まり、法令違反や違法な労働条件の発生を防止できます。
これにより、企業は法令順守を確実に実現し、クリーンな環境で会社を運営することができます。

 

従業員の働く環境や健康を守れる

従業員の働く環境や健康を守るために、残業の事前申請制を導入することは企業にとってもメリットになります。
事前申請制により、従業員の労働時間が適切に管理され、過度な残業や長時間労働を防止できます。
これにより、従業員のストレスや過労を軽減し、健康状態を維持することが可能です。

また、予定された残業については、従業員が自身のスケジュールを調整しやすくなり、プライベートな時間や家族との時間を確保できます。
健康な労働環境は従業員のモラルやモチベーション向上にもつながり、生産性や業績の向上に貢献します。
結果として、事前申請制は企業の持続可能な成長と、従業員の働く環境と健康を守るための重要な手段となります。

 

労務管理がしやすくなる

管理者は、事前に従業員の労働時間を把握できれば、プロジェクトに必要な人員や時間などを適切に計画できます。
ほかにも、従業員の労働時間が可視化されるようになれば、過労や過度の残業を防げるようになり、クリーンな職場環境の構築が可能です。
さらに、残業の記録や報告がシステム化されることで、管理者は簡単に残業時間を集計し、労働時間に関するデータを分析できます
これにより、労務管理の誤差や漏れを防ぎ、企業の規律や労働基準法を確実に守れるようになります。

 

従業員の業務効率化が進む

事前に残業を申請することで、従業員は自身の業務計画をより効果的に立てられます。
たとえば、予定された残業時間を前提に、タスクやプロジェクトの優先順位を適切に設定し、効率的に業務を遂行することが可能です。
また、事前申請制により、残業の必要性や頻度を見直す機会も生まれ、従業員は無駄な残業を避け、効率的な働き方を進めるきっかけとなります。
さらに、残業の事前申請はメンバーが予定された残業時間を共有し、作業内容や進捗を適切に調整することで、チームの業務効率が向上します。
結果として、従業員の業務効率化が進むことで、企業全体の生産性が向上し、業績の向上につながるでしょう。

 

事前申請制のデメリット

悩むビジネスマン

事前申請制にはいくつかのデメリットも存在し、従業員が予定外の追加業務に対応することが難しく、業務の柔軟性が損なわれることがあります。
さらに、事前申請制が正しく活用されない場合、サービス残業が発生するリスクも考えられます。
最悪の場合、従業員の労働環境が悪化し、モチベーション低下や離職率の増加につながる恐れがあります。
ここからは、事前申請制のデメリットと回避方法について解説していきます。

 

管理体制によってはサービス残業が発生する

管理者が残業を把握し、適切な対応を行わない場合、従業員が事前申請せずに自主的にサービス残業を行うケースがあります。
その結果、労働時間の適正管理が難しくなり、過労や業務負担の増加、労働基準法の違反につながります。
このような状況を防ぐためには、管理者の監督体制を強化し、残業の実態把握を徹底することが必要です。
具体的には、入退室管理と勤怠管理システムを連携し、退勤時間を正確に把握して、サービス残業をしていないか把握するなどの方法があります。
また、従業員への適切な業務量の分担や労働時間の調整、労働環境の改善など、業務負担を軽減することも重要です。

 

ルールを正しく守られない可能性がある

従業員が適切な申請手続きを踏まずに残業を行ってしまうと、残業時間の管理が正しくできないといったデメリットもあります。
もし、設定しているルールを無視されてしまうと、労働時間の不正確な記録が残る・労働基準法の違反が生じるなどの可能性があります。
そのため、残業の事前申請制のルールを守ってもらうために、まずは従業員へ事前申請制の重要性や手続きの遵守を定期的に周知しましょう。

このとき、勤怠管理システムの導入や申請手続きの簡素化、効率化を図ることで、従業員は事前申請を手間に感じにくくなり、ルールを守りやすくなります。
そして、適切な監督体制の構築や、ルール違反に対する罰則を決めるようにし、従業員に対するルールを守るように促すことが必要です。

 

従業員からすると申請は手間になる

残業が事前申請制になることで、残業が必要になった際にはあらかじめ申請しておかなければいけない手間が発生します。
残業が必要となるときは、業務が忙しい時でもあるため、毎回申請をしなければならないのは、従業員にとって大きな手間となるでしょう。
さらに、申請より残業時間が伸びてしまった場合、伸びた分を再度申請する必要があるので、従業員から不満の声があがる可能性があります。
対策としては、突発的な残業の場合はわかった時点での申請を可能としたり、事後でも残業申請できたりする体制を作っておくことが大切です。

 

残業の事前申請制を導入する方法

検討するビジネスマン

まず、会社規定や就業規則を事前申請制に合わせて見直し、明確な基準を設定することが重要です。
次に、残業の申請ルールを決めたのち、ルールに合わせて自社の運用にあった勤怠管理システムを検討します。
そして、勤怠管理システムで残業申請を作成できるようにし、従業員に使い方やルールを周知したのち運用を開始します。
ここからは、残業の事前申請制を導入する方法について、詳しく解説していきます。

 

会社規定や就業規則を事前申請に合わせて見直す

事前申請制を導入する際には、まず会社の規定や就業規則を事前申請に合わせて見直す必要があります。
具体的には、残業の申請手続きや条件、承認の基準、ルール違反時の罰則などを明確に定めます。
残業の事前申請制に合わせた決まりがあることで、従業員や管理者がどのような手続きが必要となるのか理解しやすくなり、ルールが守られます。
また、労働基準法について確認しておくことで、法的なリスクを最小限に抑えることも重要です。
規定や規則の見直しを通じて、事前申請制の円滑な導入と運用を実現し、企業と従業員双方にとって公平かつ効果的な労働環境を整備しましょう。

 

残業の事前申請書の雛形を作る

残業の事前申請書の雛形を作成する際には、従業員が手間をかけずに申請できるように、必要な情報を簡潔に記入できるようにしましょう。
具体的に必要となる項目は、一般的には、残業する日付、残業開始時刻、残業終了時刻、残業理由となります。
会社によっては、「業務内容」も必須とする場合もありますが、事前申請制の場合は、業務内容が多少変わる場合もあるでしょう。
そのため、1日以上前に残業申請をしなければいけない場合は、理由だけでなく、具体的な業務内容が必要かどうかもしっかり検討が必要です。

 

ルールを周知して全従業員に守ってもらう

残業の事前申請制を導入するためには、ルールを全従業員に周知し、徹底して守ってもらうことが不可欠です。
たとえば、社内のコミュニケーションツールや会議で定期的にルールや手順を説明し、疑問や不明点を解消します。
また、従業員が簡単にアクセスできるように、ルールや手順を明確にしたマニュアルやガイドラインをクラウド上に保管しておくことも大切です。
ルールを守ることで、従業員の健康が守れる・結果的に生産性が向上すれば、企業の利益向上にもつながる旨をしっかりと周知し、全従業員に守ってもらえるようにしましょう。

 

勤怠システムの導入も検討する

勤怠管理システムを導入することで、従業員の出退勤時間や残業時間を効率的に管理できます。
残業の事前申請制は、紙での運用だと事前申請書の提出や承認、残業時間の集計など手間になりがちですが、デジタルならその場で申請して管理者も承認しやすいです。
さらに、従業員は自身の労働時間を容易に把握し、現在どの程度の残業をしているのか把握できるため、適切な計画を立てられます。
また、管理者としても労働時間を見て、残業の多い・少ない従業員を把握し、適切な人員配置や業務計画の策定に役立てられます。
勤怠管理システムの導入は、事前申請制の運用と労務管理の効率化を進め、企業全体の業務効率と生産性を向上させることにつながるでしょう。

 

事前申請制のルールの決め方

ルールを決めるビジネスマン

事前申請制を導入する際には、まず申請の手続きや条件、承認の基準などを明確に定めるようにし、従業員と管理者にルールを守ってもらいましょう。
次に、残業申請のタイミングを明確にし、たとえば、何日前までに申請すればよいのか、申請の締め切り時間は何時かなどを定めます。
最後に、例外が出た場合の対処法を決めておくことも重要で、突発的な業務や緊急事態に対応するためのルールや手順を準備し、迅速な対応を確保します。
これらのルールを明確にすることで、事前申請制の円滑な運用と効果的な労働管理が実現されます。

 

申請ルールを明確に決める

申請ルールを明確に決める際には、従業員が残業を申請する際の手続きや条件を明確に定める必要があります。
具体的なルールとしては、残業を申請する際のフォーマットや必要な情報、申請の提出期限や承認フローを定めます
また、残業の理由や予想される残業時間なども明確に記載させることで、管理者が申請を適切に判断できるようにします。

もし、管理者が申請されたら承認するだけのような運用にしていると、残業申請制を導入する意味が薄れてしまいます。
必ず、どの承認者でも同じ基準で運用されるように申請ルールを明確にし、申請者だけでなく承認者にも守ってもらうようにしましょう。

 

残業申請のタイミングを明確にする

具体的なルールを定めることで、従業員が残業を申請する際に適切なタイミングを把握しやすくなります。
たとえば、残業申請の締め切り時間や提出期限を設定し、事前提出の期日は原則当日の午前中までに行う、など従業員に周知しておきます。
ただし、突発的な残業が発生する場合もあるので、いきなり残業になった場合でもその場ですぐ申請できる体制にしておきましょう。
このとき、「承認されたら残業できる」のではなく、承認されたら残業が反映される、というようにしておくのが大切です。
実際に、承認されないと残業できないルールとなってしまうと、承認者が退勤していると残業申請できないなどの問題が起こります。
従業員が残業申請のタイミングを適切に把握できるようにし、業務の遅延ややむを得ずにサービス残業してしまうなどのトラブルは最小限に抑えるようにしましょう。

 

例外が出た場合の対処法を決めておく

残業の事前申請制を導入する際には、設定したルールを守れない例外が出た場合にも、迅速に対応できるように対処法を定めることが重要です。
たとえば、急な業務増加や緊急事態が発生した場合には、従業員が事前申請を行えない可能性があります。
そのため、残業が確定した時点、または後からでも申請できるように、臨機応変に対応するルールを設定します。
これにより、従業員が業務に集中できる状況下で迅速な判断ができ、業務の円滑な進行が確保されます。
また、例外が発生した際の連絡手段や報告の仕組みも明確にしておきましょう。
対処法を事前に定めておくことで、従業員と管理者が円滑に連携し、業務の効率性や品質を維持できます。

 

残業申請をしなかったらどうなる?

注意喚起するビジネスマン

残業申請をしなかった場合、サービス残業となってしまい、就業規則や会社のルールによっては法的な問題や労働基準法違反となる可能性があります。
また、業務終了間際で申請ができなかった場合でも、事後報告が求められる場合がありますが、残業として認められるかどうかは事情によって異なります。
企業としても突然のトラブルにより残業申請ができない場合もあることを理解したうえで、就業規則や会社ルールは設定することをおすすめします。

 

残業の事前申請が無理な場合の対応も考えておく

実際に業務を進めていくうえで、突然のトラブル発生といった理由で残業の事前申請が無理な場合もあるでしょう。
そのため、残業の事前申請だけではなく、後からでも申請されて承認を得られれば、残業した分を追加できるシステムの導入を検討してみてください。
実際に、残業の事前申請のみしかできない場合だと、現場の急なトラブル対応などが発生した場合、どうしても申請が難しい状況が出てきます。
また、申請された時点で残業がつくと、残業し放題になりますが、承認されたら残業がつくようにすれば、上長はその残業が適正だったかチェックできます。
このように、適正に残業管理ができることが大切になるため、残業管理を効果的に行えるような勤怠管理システムの導入がおすすめです。

 

残業の事前申請制度で過剰労働を防止

残業の事前申請制度の導入をすることで、従業員の残業時間を適切に管理できるようになり、生産性の向上やコスト削減につながります。
さらに、労働基準法といった法令順守がしやすくなるため、従業員の働く環境や健康を適切に保てるようになるのもメリットです。
しかし、残業の事前申請制度を導入するのであれば、ルールが正しく守られるような管理体制や、稼ぐために残業がしたい従業員へのフォローも必要となります。

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柏倉優

Webマーケティングの経験を経て、2021年6月に株式会社ITCSへ入社。 記事の企画・執筆・デザイン・アクセス解析まで幅広く担当。 皆さんに「それが知りたかった!」と思ってもらえるような情報を提供できるよう、日々勉強しています。

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監修者

吉田薫

資格:元全日本能率連盟認定マネジメント・コンサルタント
銀行員、コンサルティングファーム、会計系FASなどを経て2021年株式会社COEL入社、経営企画室長。
これまでに戦略、業務改善、財務、情報システム、M&A、リスクマネジメント、CSRなど幅広い業務・テーマに従事。
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執筆者

柏倉優

資格:Webライティング能力検定 1級
クラウドシステムやソフトウェアの記事作成を中心としてライター歴7年・編集長歴5年の経験を積んだ後、2021年6月に株式会社COELへ入社。
現在はmanageブログの編集長として、人事・総務・経理の業務を効率化するためのお役立ち情報を発信しています。